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現実の量子コンピュータ

IBM実機で量子もつれ・ノイズ・Grover探索を体験

量子コンピュータIBM QuantumQiskitGroverのアルゴリズム京都イベントレポート
不思議な宿で現実の量子コンピュータについて学ぶ参加者

この記事の要約

2026年7月27日、京都・五条の「不思議な宿」で「0と1を超える世界:量子コンピュータ入門#3」を開催しました。第3回は、現実の量子コンピュータを構成する4つの代表的な方式を比較し、IBM Quantumの実機でベル状態とGroverのアルゴリズムを動かす流れを学びました。

「みやこでIT」は2026年7月27日(月)、京都市下京区の不思議な宿「0と1を超える世界:量子コンピュータ入門#3」を開催しました。

全3回シリーズの最終回です。大阪大学大学院理学研究科の大野木哲也さんによる講義では、「量子コンピュータ」という1つの名前の内側に、異なる物理方式と異なるトレードオフがあることを学びました。後半は、Qiskitで量子回路を書き、IBM Quantumの実機へ送る体験型レクチャーです。connpassでの申込登録は9名でした(実参加人数を示すものではありません)。当日のプログラムにはヨガのインターバルがあり、終了後には提供写真のように食事を囲む交流の時間を設けました。

開催概要

項目内容
イベント名0と1を超える世界:量子コンピュータ入門#3
日時2026年7月27日(月)19:00〜21:00
会場不思議な宿(京都府京都市下京区橋詰町128)
形式量子コンピュータ講義・IBM実機体験・ヨガ
講師大野木哲也さん(大阪大学大学院理学研究科)
参加申込connpassで9名

講義内容は、大野木さんの「現実の量子コンピュータ」講義資料「IBM量子コンピュータ実機に触れる」体験資料に沿っています。以下の実行回数と割合は、当日の全参加者の集計ではなく、講義資料に掲載された実行例です。

量子ビットの「正体」は方式によって違う

量子コンピュータは、抽象的な量子ビットだけで動いているわけではありません。現実の装置では、原子中の電子、超伝導回路を流れる電子対、光子など、量子力学に従う物理系から2つの状態を選び、`|0〉`と`|1〉`に対応させます。

閉じ込められた量子系では、取れるエネルギーが連続ではなく飛び飛びになります。そのうち操作しやすい2つの準位を選べば量子ビットとして使えます。ただし、何を選ぶかによって、安定性、操作速度、装置の大きさ、量子ビットを増やす難しさが変わります。

講義では、電子系の量子ビットを共鳴する電磁波で`|0〉`と`|1〉`の間に遷移させる「ラビ振動」と、光子をビームスプリッターや位相シフターで干渉させる方式を対比しました。同じ量子計算でも、実装の原理は1つではありません。

4方式の特徴とトレードオフ

講義で比較した代表的な実装は、超伝導型、イオントラップ型、中性原子型、光量子型の4方式です。

方式量子ビットとして使うもの強み主な課題
超伝導型超伝導回路のコヒーレントな状態ゲートが高速で、半導体技術を応用して集積しやすい希釈冷凍機による極低温環境と短いコヒーレンス時間
イオントラップ型真空中に捕捉したイオンの電子準位高いゲート精度と長いコヒーレンス時間レーザー制御が必要でゲートが比較的遅い
中性原子型光ピンセットで並べた中性原子原子配置を再構成でき、量子ビット数を増やしやすいRydberg状態の安定性とゲート忠実度
光量子型光子の偏光や経路室温で動作し、光ファイバーとの親和性が高い光子損失と確率的な2量子ビットゲート

方式ごとに得意な条件が違うため、「量子ビット数が最も多い装置が常に最も優れている」とは限りません。計算精度、接続関係、ゲート速度、エラー率、実行したいアルゴリズムまで含めて評価する必要があります。

講義資料では、海外の実機に加えて、大阪大学QIQBの純国産量子コンピュータや理研・富士通の超伝導量子コンピュータも紹介されました。理論上の量子回路だけでなく、冷却装置、制御系、チップ、クラウド環境を含む総合的なシステムとして見ることが、今回の「現実」というテーマです。

不思議な宿の外から見た量子コンピュータ入門第3回の講義風景
不思議な宿の外から見た量子コンピュータ入門第3回の講義風景

QiskitからIBM Quantum実機へ接続

体験資料では、IBM Quantum Platformのアカウントを用意し、Pythonの仮想環境へQiskitと`qiskit-ibm-runtime`を導入して、手元のコードから実機へ接続する流れを扱いました。

接続に使うAPIキーは、利用者本人を認証する秘密情報です。画面共有、ノートブックの公開、Gitリポジトリへのコミットに含めてはいけません。漏えいした場合は該当キーを削除し、再発行する必要があります。認証情報の扱いも、クラウド上の量子コンピュータを使う実践の一部です。

作成した回路は、そのまま任意の実機で動くとは限りません。利用するバックエンドを選び、実機が持つ量子ビットの接続関係と使用可能なゲートに合わせてトランスパイルし、Samplerを通じてジョブをキューへ送ります。実機が混雑している場合は、実行まで待ち時間が発生します。

ベル状態で量子もつれとノイズを確認

最初の回路は、2量子ビットのベル状態です。1つ目の量子ビットへH(アダマール)ゲートを適用して`|0〉`と`|1〉`の重ね合わせを作り、続いてCX(制御NOT)ゲートで2つの量子ビットをもつれさせます。

理想的な結果では、測定値は`00`と`11`だけになり、それぞれ約50%の確率で現れます。しかし、実機では理論上想定しない`01`や`10`も少数観測されます。

講義資料に掲載された実行例では、4096ショットの内訳は`00`が1,955回、`01`が85回、`10`が129回、`11`が1,927回でした。`00`と`11`を正しい結果とすると正答率は約95%です。

この差は、H・CXゲートを物理的に実行するときのゲート誤差、0と1を読み違える測定誤差、周囲の熱や電磁ノイズによって量子状態が壊れるデコヒーレンスなどから生じます。シミュレーターでは隠れがちな「現実の量子コンピュータ」を、結果のずれとして確認できる例です。

Grover探索で正解の振幅を増幅

2つ目は、4つの候補`00`、`01`、`10`、`11`から正解`11`を探すGroverのアルゴリズムです。

まずHゲートで4つの状態を均等に重ね合わせます。次にオラクルが正解`11`の位相だけを反転し、拡散演算子が正解状態の振幅を増幅します。2量子ビットのこの例では、オラクルと拡散の組み合わせを1回実行すると、理論上は`11`へ到達します。

講義資料に掲載された実行例では、4096ショット中3,736回、約91%の確率で正解`11`が観測されました。何の情報も使わないランダム探索の正解率は25%です。この小さな例では、量子探索によって正解を約3.6倍見つけやすくなりました。

理論上の100%に届かない残りの約9%は、ベル状態の実験と同じく実機ノイズの影響です。アルゴリズムの効果と、現在のハードウェアが持つ制約を同じ実行結果から読める点が、この演習の重要なポイントでした。

NISQから誤り訂正へ

現在の量子コンピュータの多くは、NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum)と呼ばれる段階にあります。一定規模の量子回路は動かせる一方、ノイズを完全には排除できず、長く複雑な計算ほど誤差が積み重なります。

量子状態が環境との相互作用で失われるデコヒーレンスには、装置を極低温に保つ、外部ノイズを減らすといったハードウェア側の対策があります。それだけでなく、複数の物理量子ビットを組み合わせて1つの論理量子ビットを構成し、誤りを検出・訂正する量子誤り訂正が、本格的な実用化に向けた重要課題です。

量子コンピュータのニュースを見るときは、物理量子ビットの数だけでなく、どの方式か、どれほど正確にゲートを実行できるか、論理量子ビットとしてどこまで安定して計算できるかを見る必要があります。

学びの合間にヨガ、終了後は交流

connpassに掲載した当日のプログラムどおり、講義の合間には初心者向けのヨガを取り入れました。量子力学と量子回路へ集中する時間の間に身体を動かし、頭と身体を切り替えながら学ぶ構成です。

終了後は、提供写真のように会場で食事を囲みながら交流しました。講義で扱った内容を振り返り、参加者同士が話せる時間も、対面の勉強会ならではの要素です。

講義後に食事を囲んで交流する参加者
講義後に食事を囲んで交流する参加者

全3回を終えて

第1回は「なぜ量子コンピュータか」を入口に、重ね合わせや量子もつれを学びました。第2回は量子回路とShorのアルゴリズムへ進み、第3回は物理的な実装方式とIBM実機を通じて、理論と現実の間にあるノイズを確認しました。

第2回の内容は量子回路とShorのアルゴリズムの開催レポートで紹介しています。全3回を順番に読みたい方は量子コンピュータ入門シリーズ完全ガイドをご覧ください。

量子コンピュータは、すでにクラウドから実機へ接続できる一方、誤り訂正を含む大規模な実用計算には課題が残ります。「未来の技術」と「今触れられる実機」の両方を同時に見ることが、このシリーズを通じた学びでした。

ご参加ありがとうございました

講師の大野木哲也さん、ヨガを担当いただいた大野木由香さん、ご参加いただいた皆さま、会場の不思議な宿の皆さま、ありがとうございました。

「みやこでIT」は今後も、京都で技術勉強会、もくもく会、交流会を開催します。今後の予定はイベント一覧またはconnpassの「みやこでIT」グループでご確認ください。初参加や一人での参加も歓迎しています。

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この記事を書いた人

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